少年シロップ
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小さな一歩 ~初めてのキス~
コンコン…
小鳥の部屋のドアが鳴った。
「入るぞ~。」
「はい。」
のっそりと顔を出した要が部屋に入ってきた。
「こ~とりっ、会いたかったぞ~。」
要の口角はあがり、目じりは、だらりと垂れている。
要が喜んでいるときに見せる顔だ。
要は毎日毎日、こっそり小鳥の部屋にやってくる。
そして、小鳥を抱きしめて、取り留めもない話をする。
今日はどんな仕事をしたのか?
その時の気分や、心情を聞いたりする。
小鳥はそれを不思議に思っていた。
自分のメイドのチェックを毎日行っているのだろうか?
そんな風にさえ思っていた。
「どうした?何か考え事か?」
ぼーっとしている小鳥を見て、心配そうに問いかける。
「いえ…なんでもないです。」
その言葉を聞いた、要は小鳥をきつく抱きしめ小鳥の小さな唇にキスをした。
「んっ…。」
ほんの少し漏れた声とも息ともつかない音がする。
優しく、慈しむようなキス。
今まで、なんども小鳥にキスをした…。
この気持ちが少しでも小鳥に届く様に…。
だが、その想いはまだ小鳥に届かない。
(要様はキスがお好きなんだなぁ…。)
灯や悠里とのキスやそれ以上の行為を見続けてきた小鳥にとっては、そのくらいの感想しかなかった。
「…小鳥…。」
キョトンとした顔で、要の顔を見つめている小鳥を見ると胸が痛む。
(こんなに…こんなに……。)
要は胸の奥から沸き上がる衝動を抑える。
このまま勢いで、小鳥を犯してしまうのは雑作もないことだった。
きっと、小鳥は拒まないだろう。
それでも、要は決してそうはしなかった。
命令でなく、自分を受け入れて欲しかったからだ。
「小鳥…お前は俺のこと好きか?」
「好き…?」
「そうだよ、俺に触られるのは嫌か?キスされると、どんな気分になる?」
たくさんの疑問が投げかけられる。
小鳥はいつもこの疑問に戸惑ってしまう。
そして、いつものように最後は俯き、沈黙が流れる。
「すまない…。」
そう言った要の顔は、いつも、とても悲しそうだった。
そして、要は部屋を後しようと起ちあがった。
いつもの、いつも通りのやり取り…。
だが、この日は少し違った。
「まっ…待ってください。」
小鳥が、要を引きとめたのだ。
「小鳥?」
呼びとめた、小鳥自身も驚いていた。
(どうして?どうして僕は…要様を呼びとめたのだろう…?)
「どうした?」
不思議そうに小鳥の方を見る。
「あっ…あの…僕…わからないんです…僕も…どうしてだか…でも…」
そのあとの言葉が出てこない…。
「一緒にいたかった?」
「えっ…?」
「もっと一緒にいたかったんだろ?俺がいなくなるのが嫌だったんだろ?」
小鳥は、混乱していた…。
いつもなら、あのまま要様を見送って仕事に戻るのに…。
(どうして?)
理解できない行動に鼓動が速くなる。
要は小鳥のもとに駆け寄ると、そっと小鳥を抱きしめる。
「大丈夫だよ、怖がることなんてない、俺は嬉しいよ、よくわからないその行動が…凄く嬉しい…。」
「嬉しい?」
「ああ…。」
抱きしめられた腕がなんだか、暖かく感じる。
不思議な感覚だった。
早くなっていた鼓動が落ち着き始める。
そして、今度はさっきとは違う鼓動の高鳴りを感じた。
それは、小鳥にとって初めての感覚だった。
(これは…?)
「要様…僕…心臓が苦しい…。」
「そうか…じゃあ、こうするとどうなる?」
要は小鳥に、もう一度キスをした。
ドクン…
「んっ…もっと…苦しい…。」
要は抑えきれない感情が湧きあがってきて、小鳥に夢中でキスをした。
小さく閉じた唇を割って、ぬるりと舌を侵入させる。
これまた、小さく震える小鳥の舌を吸い上げ、絡める。
「うっ…ふっ…やっぁ…やっ…やだっ…!」
小鳥が声を荒げて抵抗した。
「小鳥…。」
「嫌です…なんだか…僕っ…おかしい…です…ドキドキとまんないし…苦しい…のに…要様が…いっぱい…入ってきて…」
初めてだった…
初めて、小鳥が要を拒んだのだ。
言葉は、たどたどしかったが、自分の意思をはっきりと伝えている。
「ごめん…ほんとごめん…俺我慢できなくて…小鳥、初めて嫌がったな。」
小鳥はその言葉に、はっとした。
「もっ…申し訳ありません。」
「いいんだ、嫌なら、嫌っていってくれよ…お前の全部が知りたいんだ…俺…お前が大好きだから…。」
ドクン…
(まただ…)
小鳥の胸がまた高鳴る。
「要様…僕…また…苦しい…僕、病気なの?」
「くくっ…ああ…病気だな…恋の病だ。」
嬉しい気持ちを押し殺して、優しく説く。
「恋?僕…要様が…好き…?…。」
「疑問形じゃダメだからな。」
腕に抱く小鳥の額を人差し指で、優しく突く。
小鳥は生まれたばかりの気持ちに戸惑いながらもその気持ちを受け入れた。
「僕…要様が…好きです。」
要が小鳥を抱きしめ、小鳥も要を抱きしめる。
自然とお互いの唇が近づいて、重なり合う。
初めての…キス…。
「んっ…あっ…ふっ…。」
要の手が小鳥の身体を厭らしく弄る。
「うっ…あっ…やっ…やぁっ…ダメです。」
「ええっ!なんでだよ~やっと小鳥を抱けると思ったのに!」
「まっまだ…僕…、とっとにかくまだ、ダメなんです~。」
そう言って、小鳥は小走りで逃げていってしまった。
「マジで…?」
ぽつんと残された要はとたんに笑いが込み上げてきた。
爆笑しながら、要は思った。
(これからだよな、小鳥…、次こそは…ぜってーやってみせる!)
小さな小さなその一歩は、大きな大きな第一歩だった…。
終
[2012/05/25 11:06]
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